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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)225号 判決 1958年6月03日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人榊純義の上告趣意第一点について。

記録によれば、被告人に対する本件昭和二九年一二月二四日附起訴状の公訴事実は被告人が同年一二月三日頃被告人の自宅で第一審判決判示覚せい剤注射液三四〇本を所持したという事実であり、同三〇年三月一五日附起訴状の公訴事実中の第一の(二)はその以前被告人が同二九年一一月末頃被告人の自宅で文公伯より同覚せい剤注射液約三四〇本を譲り受けたという事実であり、原判決の是認した第一審判決はこの両公訴事実を認定したところ、同判決及び挙示の証拠によれば、右のうち前の起訴状による公訴事実(第一審判示第二の(三))における所持の目的物たる覚せい剤三四〇本というのは後の起訴状による公訴事実(同判示第二の(二))における譲受の目的物と同一物であること、すなわち、右覚せい剤譲受の事実とその同じ覚せい剤をその後所持した事実とが別個に起訴され判決において別個の犯罪として認定されているのであるが、しかし、右公訴事実及び第一審認定事実における所持とは、被告人が判示の年一一月末頃覚せい剤約三四〇本を譲り受けた後(すなわち、覚せい剤不法譲受罪が完了した後)、法定の除外事由がないのに更にそのうち四〇本を被告人方階下蝿帳の下に、三〇〇本を二階床下に隠して同年一二月三日頃所持した事実を指すものであることが認められる。かような場合には右覚せい剤の譲受とその隠匿所持とは同一の事実でなく第一審判決のようにそれぞれ別個の覚せい剤不法譲受罪と同不法所持罪とを構成するものと解するを相当とする。このことは覚せい剤譲受行為とその覚せい剤の一部を居宅炊事場の石油缶または土蔵内に隠匿所持した行為とは各別個の罪を構成し併合罪となるとした当裁判所の判例(昭和三〇年(あ)一六六五号同三一年一月一二日第一小法廷決定、集一〇巻一号四三頁)の趣旨に照らして明らかである。されば、憲法三九条違反の論旨は前提を欠き採用することができない。

同第二点は、憲法三八条違反をいうが、原判決の是認した第一審判決は被告人の判示犯罪事実を認めるのに自白調書のほか数個の証拠を挙示していること判文上明白であり、また、記録によれば、所論検察官または司法警察員に対する供述が任意性を欠く事跡は認められないから、違憲の所論は前提を欠き採用することができない。

同第三点は、違憲をいうが、その実質は量刑不当の主張をいでず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第四点は、憲法三七条違反をいうが、記録によると、原審で弁護人が申請した証人のうち三名については却下されたけれども、そのほかに申請にかかる証人名達正八郎、同文公伯は原審で尋問されていること明らかである。のみならず、憲法三七条二項が被告人側の申請にかかる証人は必ず取り調べなければならないことを意味するものでないことは当裁判所の判例とするところであるから(昭和二三年(れ)八八号同年六月二三日大法廷判決、集三巻六号七三四頁)、所論は理由がない。

同第五点は証拠の取捨判断に対する非難で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人塚本重頼の上告趣意第一点について。

所論は単なる法令違反の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。「覚せい剤取締法一四条にいわゆる所持とは必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもって足りると解すべきである」とすること当裁判所の判例である(昭和三一年(あ)三〇〇号同年五月二五日第二小法廷判決、集一〇巻五号七五一頁)。所論の点に関し第一審判決が認定した趣旨は、被告人と名達正八郎とが共謀の上判示覚せい剤の存在を認識しこれを被告人等において管理しうる状態において判示の者に預けたというにあること判文上明瞭であるからこれが同法一四条にいう所持に当ると解すべきこと疑を容れない。

同第二点は憲法三一条違反をいうけれども、その実質は単なる訴訟法違反の主張に過ぎず、同第三点は単なる量刑不当の主張に過ぎず、同第四点は原審の審判の違憲若しくは違法を主張するところなく単に当審における上告趣意書差出最終日の通知に関する違法をいうに止まるもので(昭和二六年(あ)二二一七号同二七年一〇月二三日第一小法廷決定、集六巻九号一一一八頁参照)、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔)

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